怠惰

怠惰

人は基本的に怠惰な生き物だ。ダーウィンの進化論によって、人間は自分たちが神によって作られた完璧な存在ではないことを知った。我々も動物の進化の「過程」に過ぎない。そもそも、人間の脳は集中しないように進化した。狩猟採集時代、肉食動物が迫ってきているのに気づかず、集中して石を削っていた素晴らしい集中力の持ち主たちは、例外なく絶滅した。僕たちの祖先は集中力がないことで生き延びてきた。僕たちの脳はもともと集中には向いていない。記憶も生存のために進化した。恐怖を感じる扁桃体の横に、記憶に関する海馬があることからもわかる。人はだれしも怠惰だ。エネルギーを最小化しないと飢え死にしてしまう時代に脳が進化したからだ。

 

集中力 = モチベ × 注意力の維持

 

モチベ?

集中するためには、まずモチベーション必要である。モチベは行動を起こすための動機だ。物理法則で動くこの世界には慣性の法則があり、何事も最初が一番難しい。つまり、モチベ管理が最も難しい。そこで、多くの人はこれを自動化する、つまり、モチベ維持にエネルギー浪費しないのが一番賢いやり方だ。自動化はいわゆる習慣化であり、歯磨きや入浴のように習慣化するやり方だ。いや、取り掛かることさえできないのに習慣化できるのだろうか。

 

モチベ = 内発的動機 + 外発的動機

 

内発的動機には持続性があり、外発的動機よりも強くモチベに作用する。自分の内側から沸き起こるモチベだ。自分の価値観や目標、夢によりもたらされる。生産性の向上によりパフォーマンスをあげること。内発的動機づけによるモチベーション管理では、ドーパミンによる報酬回路が形成される。これは、自発的な学習サイクルを生み出すことができる。

 

外発的動機づけは、外部からの刺激によるモチベーション管理である。他人からの評価や名誉という報酬や、締め切りなどの罰則などがある。自発的ではないため、ノルアドレナリンによる集中サイクルが発動する。

 

 注意力の管理

これはかなり前頭葉の機能に左右される。meditation(瞑想)は脳の筋トレであり、瞑想によって前頭葉や海馬が鍛えられることが医学的にわかっている。毎日必ず瞑想をすること。また、環境要因が大きいため、注意力をそがれる要因を徹底的に排除するのも効果的である。スマホが視界にあるだけで集中力は下がる。通知なんてもってのほかだ。

 

睡眠、食事、運動をまず習慣として確実にこなすことで、集中力のベースラインは向上する。生産性は格段にアップする。

 

睡眠

まず、生産性の低下の原因として一番痛感したのが生活リズムの乱れだ。動物である以上、体のメンテナンスが一番重要だ。脳は体の一部だ。睡眠を改善しないやつは、一生集中できない。睡眠時間は必ず7時間以上とらないといけない、これは統計的な事実だ。寿命を削りたいやつは7時間以下でも良い。この時間は毎日変動させず、絶対に守らなければいけない第一のルールとする。

次に、22時前までに入浴を済ましておく。入眠の90分前までに入浴は済ませておくのがベストだからだ。深部体温の変化により副交感神経を優位にさせる。23時〜24時は脳を使わないことで抑制的に働く神経伝達物質GABA(ガンマアミノ酪酸)を優位にさせる。ブルーライトもカットする。ブルーライトは目の網膜まで届き、睡眠を妨害する。スマホは見てはいけない。部屋も暗くしておく。

睡眠から4時間前の8時までには夕食を済ませる。

起床後が問題なのだが、午前中に30分ほど日光を浴びることで松果体に刺激を与え、体内時計をリセットする必要がある。インドアの僕にとってはかなりきついが、コロナもあるのでビタミンDの活性化も必要なので仕方なく公園にでも出て本を読もう。(ビタミンDは日光により活性化される)睡眠に必要なトリプトファンメラトニンなどの物質を食事から取り込む。

 

睡眠不足

睡眠不足状態では、インスリン抵抗性が高くなるため、脳や体にエネルギー源であるグルコースを取り込むことができなくなる。細胞はエネルギー不足となり、疲労感を感じやすくなる。いくら糖分を補給してもうまくとりこむことができなくなる。これは糖尿病や心臓病などにもつながる。睡眠時間が6時間以下だと危険だ。睡眠不足は、軽度の酩酊状態と同じような影響を脳に与える。研究では寝溜めに効果はないことがわかっている。毎日規則正しく6時間以上の睡眠をとる必要がある。

 

食事

地中海式(MIND)×  intermittent fasting

魚をメインに、睡眠のため鶏肉を摂取していく。

カフェインを12時までにする。水を増やす。

 

運動

COVID-19のせいでジムに行くことができない。筋トレにより免疫力は低下することがわかっているが、脚力とIQが比例するという研究もあるように、筋トレによりもたらされるメリットは大きい。BDNF(脳由来神経栄養因子)やテストステロンの増加による知的生産性の向上は利用するに値する。プッシュアップやスクワットから再開する。筋トレにより自己肯定感を上げることができ、これはモチベ構成要素の1つでもある。

ちなみに、有酸素運動のほうが脳機能に関するエビデンスが豊富だ。内因性カンナビノイドなど、興味深い物質が関与している。

 

内発的動機を支えるシステムの構築

「GRIT」×「成長マインドセット

GRITはアンジェラ・ダックワースが提唱している「やり抜く力」のこと。どんな困難でも絶対に諦めない。諦めないことが大切だ。今日一日を変えることが何より大切で、日々諦めてはいけない。自分にしかできないことはないとしても、自分にしかないことがかならずある。成長マインドセットはキャロル・ドゥーエックが提唱している「努力によって自分は成長できる」という考え方だ。

この2つを支えるのが自己肯定感とレジリエンス(強靭な精神力)だ。絶対に折れない心と、自分を許す力。フランス語に「すべてを理解することはすべてを許すこと(Tout comprendre, c'est tout pardonner)」という言葉がある。今までの怠惰な自分を許す。過去を肯定する。自分を攻めるな、人間である以上、誰しも怠惰な動物なのだから。

 

 

マインドフル

マインドフルに一点集中することが大切である。タイマーの利用も効果的だ。

(25分集中+5分休憩)

 

自己認識

まず、自分の行動・選択を記録する。人間はほとんどの選択を無意識におこなっているため、自分を知るためにはどんな状況でそういった選択をしているのかを記録しておく必要がある。自分が衝動に動かされていることに気づくこと。ボディスキャンによる身体感覚の現状把握は集中力を高めると同時にストレスを減らす。

 

衝動の回避

ストレスを感じると交感神経が活発になり、心拍数が増加する。これにより不安や怒りの感情が現れる。しかし、自己管理能力があれば心拍数は増加しない。これを逆手に取り、誘惑や衝動に負けそうになったとき、1分間に4〜6回のペースで深呼吸をすれば心拍数が増加しないため、自己管理能力を発揮できる。

 

ストレス・マネジメント

ストレスによってやる気は一瞬で失われる。ストレスを上手くコントロールするためにリアプレイザルやRAIN、ACTなどの認知行動療法

 

疲労

疲労は実際に体に起きているのではなく、感覚や感情にすぎない。感情のコントロールによって集中は維持できる。

 

ドーパミン

ドーパミンは敵にも味方にもなる。ドーパミン報酬の予感を感じたときに放出され、注意力を集中して欲しい物を手に入れようとする。ドーパミンによって得られるのは「期待」であり「幸福感」ではない。日常はドーパミンを簡単に引き出してしまうもので溢れている。その「期待」によって得られたものは果たして本当に欲しかったものなのだろうか。

 

恐怖感

恐怖感を感じるニュースを見ると意志力は低下する。人は恐怖感を感じると無意識に安心感や安らぎを与えてくれるものにすがろうとする。コ口ナウイルスの死者数や感染者数などのニュースを見るだけで過食が増え、自制心は低下する。ネガティブバイアスにより、人は恐怖を感じるものに注意をとられやすい。コ口ナ関連のニュースを見た回数が多い人ほど、メンタルに不調をきたす割合が高いということがわかっている。ニュースは見なくていい。

 

意志力の感染

身の回りの人の生活習慣は伝染する。意志力の弱い人が身近にいれば自分の意志力も低下する。(ピア効果)

試作

人生とは何か。予測不可能な未来、曖昧な過去。

サピエンスという種。600万年前にサルと共通の祖先から猿人が生まれ、原人、旧人を経て現在の新人へと進化した。僕たちサピエンスは20万年間、多くの同胞を殺戮しながら現代まで生き延びた。

生物学者リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』において、「DNA自体が本体であり、ニンゲンはDNAの乗り物に過ぎない」と述べている。利己的なDNAの使命は、子孫という形で自己を複製することなのだ。僕は思った。生物学的な観点からニンゲンを見た時、人生に意味はないのだと。僕らは植物や動物と何ら変わらない、自らの種の存続を目的として生きている。

僕は種としてではなく、個としての人生とは何かと問いたい。まず文献を漁る。ゼロから考えることに意味はないし効率が悪い。新しく思いついたと思ったことの大半は過去の先人によってすでに考えられたものである。

歴史。そこには2種類のニンゲンがいた。使う側のニンゲンと使われる側のニンゲンだ。更新世が終わり地球が温暖化した1万年前、農耕の始まりから人類の文化が始まった。農耕は格差を生み出し、人々を使うものと使われるものに分けた。僕たちは稲や麦に支配されてしまった。権力を握る上位数パーセントのニンゲンに僕たちは職業や役割、人生の意味を与えられ、それぞれの生を全うした。僕たちの人生は、生まれたときから決まっていた。多くの人は与えられた運命に抗うことはできなかった。多くの人にとって人生は苦の連続だった。

苦から逃れるための救いとして、僕たちは物語を作った。祈れば救われるという物語や、来世や天国で救われるという物語、絶対的な力や目には見えない超常現象が存在するという文脈の中に自分たちを位置づけた。

でも僕たちは知ってしまった。400年前の科学革命により、すべてが虚構であり、真実ではないということに気づいた。この世界を包括する宇宙、太陽系、地球、すべての物質すべての生命は物理法則によって動いており、人間も例外ではないと。イェール大学教授のシェリー・ケーガンは著者『「死」とは何か』で「人間は死んだら無に帰るだけだ」と述べている。どのような死に方であれ分解者によって時間がたてばO、C、H、Nなどの元素となり地球を循環する。そこに魂はない。つまり、どのように生きたとしても死によってすべては消えてしまう。来世も天国も地獄もない。それは僕たちが死を恐れ救済のために生み出した物語に過ぎないからだ。

死によってすべてが終わるなら人生に意味はないのだろうか。

「人生の目的は社会貢献だ」などとよく言われる。『嫌われる勇気』でもそのように書かれていた。だが本当にそうなのだろうか?僕も昔はそう思っていた。だから医者を目指していたし、経済理論によって貧困をなくそうとも思っていた。でも、ロルフ・ドベリの『Think clearly』には歴史に名を残したところで意味がないと書かれていた。だってそうだろうアメリカの名前を聞いて、それがイタリア人の探検家アメリゴ・ベスプッチによって発見されたなどと誰も知らないし、知っていたとしても「ふーん」くらいにしか思わない。アインシュタインアインシュタイン方程式を証明しなくても、人類の知は蓄積されていき、いずれ別の誰かが発見していたというのだ。明治維新はイギリスの介入による力が大きく作用していたし、偉人なんてただの自己満足でしかない。社会貢献は種としては必要だが、個としては必要ではない。

人生とは結局なにか。歴史と対比してわかったことは、現代では職業や身分、思考があまり制限されておらず、人生の意味を自分で定義できること。あまり意味が多様化しすぎたせいで価値観が曖昧になり、アイデンティティ・クライシスやメンタルの不安定化が起きていること。現代人の鬱病やメンヘラは、こういった社会的環境の変化だけのせいではない。

600〜1万年前までの約600万年間の狩猟採集生活。農耕は1万年。つまり脳は「狩猟型」:「農耕型」=600 : 1 の比率で進化している。現代人の脳は現代のイノベーションに対応しきれていない。その例が肥満などの現代病だ。現在、食べ物が足りなくて死ぬヒトよりも、食べ物の食べ過ぎで死ぬヒトのほうが多い。これは脳が狩猟時代のままで、「糖分」や「脂っこいもの」に対して再現のない食欲を引き起こしてしまうからだ、現代人はガラケー(脳)にiOS(最新の情報や技術)を無理やりインストールしたようなものだ。実際、数々の研究により狩猟採集時代の食生活を送ることで肥満だけでなくメンタルや脳機能が向上することが確認されている。

よって、人生の満足度を高めるためにはこのガラケーiOSの差を解消することが必要不可欠であることは自明である。

まず、脳をハックするには、食事、断食(intermittent fasting)によるオートファジーの活性化、睡眠、運動、瞑想(meditation)による脳のハックetc...が必要なことが科学的根拠とともに明らかになっている。

次に、思考・精神のハックについてだが、ピグミー族という狩猟民は双曲割引率が非常に高い=目の前のことしか考えてない=未来について考えてない。一方、現代人は常に漠然とした未来について考えなくてはいけない状況にある。つまり、ミスマッチをなくすためには未来と今の時間を短くとらえるような思考法のインストールが必要である。(自己連続性)

さらに、他人モードで生きるのをやめる。人は、自分の視細胞からしか世界を知覚できない。(さらに、視覚は差分認識しか行うことができない) 例えば、スタンフォードのケリー・マクゴニガルは「自分の捉え方次第でストレスによるホルモンをコントロールできる」と提唱している。ストレスホルモンのコルチゾールやアドレナリンをオキシトシンドーパミン、DHEA(神経成長因子)などに「自分の解釈を変えるだけで」変えることができる。自分がストレスフルに生きている原因は自分にある。このように自分の考え方や思考のソフトウェアをアップデートさせ続けることは、満足度の高い人生を送る上で必要である。他人モードでいつも他人からの評価を気にし、承認欲求によって生きるヒトは、他人から見向きもされなくなった瞬間終わる。自分をハックして、自分を変えていけ。ヒトに頼るな。人類学者のロビン・ダンバーが提唱するダンバー数は150人。ニンゲンは150人ほどのコミュニティしか維持できない。SNSで多くのヒトとつながったとしても、脳はミスマッチにより疲弊している。承認欲求を消し去れという点ではアドラーに賛成する。他人のために、他人の人生を生きることに意味はない。(種としての本能により、他人を助けると自己肯定感upや、自己満足などにより幸福度があがることがわかってはいるが:ヘルパーズハイ)

欲望は満たしても満たしても満たされることはない。限界効用逓減の法則というものがある。お腹が空いているとき、1つ目のパンは美味しいが、2つ目、3つ目、4つ目と食べていき、5つ目にさしかかったとき、そのパンはもはや美味しくない。満足度はしだいに低下していくという理論だ。ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンは、幸福に生きられる年収は800万円がピークという理論を提唱した。800万あろうが1000万あろうが、食べられるパン(必需品)の数は変わらんということだ。

すべての欲望はフィクションだ。その欲求は、本当に自分の欲求だろうか。多くの人が死に際に「自分の人生はどこか他人の人生だった気がする」と後悔するという研究がある。自分の人生を生きていいんだ。それほんとはフィクションにすぎない。欲望に際限はない。人生は基本的に苦の連続だと受け入れることで、プロスペクト理論によるセットポイントを下げておく、満足度の基準を下げておく。最低限の欲求だけを満たし、多くを求めない。望むだけエネルギーと時間の無駄だ。

人生とは、すべてはフィクションだということに気づいた後、自分だけの物語を作り出すことだ。38億年前に生命が誕生してから自分が誕生するまでの約38億年間意識がなく、死んでいた僕たちだ。たった数十年意識があったくらいで今さら死を恐れることに意味があるのだろうか。数十年前の状態に戻るだけだ。万物は流転する。時の不可逆性という物理法則は覆せない。安心して余生を全うしよう。